幹細胞

Stem Cells

私たちの体は、何十兆個という細胞によってできていて、それぞれの細胞には決まった役割があります。私たちが特に意識せずに毎日できていること、例えば体を動かすことや、痛みや温度を感じることなどは、全て細胞のはたらきによって支えられています。細胞の中でも、特殊な能力を持った細胞を幹細胞とよびます。

幹細胞の特殊な能力とは「自分自身と同じ細胞に分裂する能力」と「自分とは違う細胞に分裂する能力」です。専門用語ではこれを非対称性の分裂といいます。

ひとことで幹細胞といっても、性質によって大きく3つに分けられます。体性幹細胞(成体幹細胞、組織幹細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)、iPS細胞(人工多能性幹細胞)です。体性幹細胞は、老化や傷などで失われた細胞を作って供給する役割のある細胞で、皮膚や血液や脂肪、骨髄などに存在します。

体性幹細胞は、基本的に存在する場所で決まった細胞しか作れません。つまり、血液を作る細胞は血液系の細胞のみ、神経を作る細胞は神経系の細胞のみを作るということです。ES細胞は受精卵という細胞を原料として作成されます。、体性幹細胞と異なり、ほぼ全ての細胞になる能力があります。しかし、ES細胞の原料が人間の萌芽である受精卵のため、倫理的な問題が指摘されています。

iPS細胞は、簡単に言うと、人工的に作り出した胚性幹細胞(ES細胞)です。しかもその原料となる細胞は、皮膚の細胞や血液の細胞など、採取に倫理的な問題がほとんどない細胞を原料としています。iPS細胞は、基本的に自分自身の体を構成するどの細胞からも作ることができるので、治療だけでなく、薬の副作用の評価や病気の解明などに活用できると考えられています。また、iPS細胞は受精卵由来ではないため倫理的な問題を避けることができます。

このような特殊な能力のある幹細胞に関する研究は世界中でさかんに行われており、病気の治療への応用が期待されています。病気やけがなどで機能しなくなった細胞や臓器、または失われた臓器を幹細胞から作った細胞や臓器で置き換えることができれば、多くの病気の治療法になります。

幹細胞によって、失われた細胞や臓器を置き換える医療技術を再生医療とよびます。まだ研究段階ではありますが、失明状態にある患者さんに対する角膜細胞の移植、拡張型心筋症の患者さんへの心筋細胞の移植、脊髄損傷の患者さんに対する神経細胞の移植などが行われています。仮に、精子や卵子などの生殖細胞を幹細胞から作ることができれば、不妊症の治療法の1つになるかもしれません。

現時点で、臓器不全に対する治療法は他人からの移植に頼っていますが、幹細胞から作った肝臓や腎臓、心臓などを移植することができれば、多くの患者さんが救われるでしょう。このように聞くと、幹細胞による治療は夢の治療のように感じるかもしれません。しかし、実際に幹細胞を利用した治療法を確立するためには、いくつかの課題もあります。例えば、多くの細胞の集合体である臓器の生成は難しいこと、長期的な合併症がまだわからないことなどです。

医学の歴史を見ると、すでに確立されている治療法も多くの試行錯誤を経て実践されてきました。まだ課題はあるものの、幹細胞による再生医療には多くの期待が寄せられています。