2022.08.05
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同じ年齢の方でも、見た目の若々しさが違うということがあります。若く見える人と老けて見える人がいるのはなぜでしょうか。見た目だけではなく、内臓や脳や臓器、骨なども、老化が進んでいる人と、若々しい人がいます。
なぜ人によって老化のスピード、つまり「老化の個人差」が違うのでしょうか。
その原因の大元まで辿っていくと、「細胞の老化の個人差」と言い換えることができます。人の体の中に60兆個もある「細胞」と、細胞が作り出す「体の部品」が劣化し老化していくサイクルが、その人の体全体の老化につながっているのです。
確実なアンチエイジング(老化防止)として必要なことは、自分の細胞の健康を自身で守ることです。
この先生が執筆しました
北條 元治 先生
株式会社セルバンク代表取締役。東海大学医学部客員教授。
信州大学附属病院勤務を経てペンシルベニア大学医学部で培養皮膚を研究。帰国後、東海大学にて同研究と熱傷治療に従事。
2004年、細胞保管や再生医療技術支援を行う株式会社セルバンクを設立。2005年、RDクリニック開設に際し、培養皮膚の特許を供与。
著書に『ビックリするほどiPS細胞がわかる本』・『美肌のために必要なこと』他多数。
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Contents
見た目の老化は肌に一番現れる
皮膚は細胞と死んだ細胞でできている
真皮の老化が「シワ」「たるみ」「クマ」を招く
効果的な肌のアンチエイジング(老化防止)は
細胞とアンチエイジングについて詳しい内容は書籍に掲載されています
見た目の老化は肌に一番現れる
人の身体で老化が一番わかりやすく見えてくる部位はどこでしょうか。
それは、肌です。
身体の表面にある皮膚、肌は老化の変化が一目瞭然です。人の肌は、年をとればとるほど弾力性がなくなっていきます。
例えば、老人の皮膚はシワが深く入り、明らかに弾力性がありませんが、見た目が老けている人は、血管でも同じような老化現象が起こっています。「肌は若いけど、体の中や血管の老化が進んでいる」とか、逆に「肌は老化が進んでいるが、内臓や血管は若々しい」というケースはほとんどありません。
身体の体内も老化が進んでいるのです。血管も年をとると老化して、弾力性がなくなったり、皮下出血を起こしたり、動脈硬化になり、心筋梗塞、脳梗塞など様々なリスクが高まります。しかし、ご自分の血管を直接見ることはできないので、「自分の血管が老化しているか、年相応なのか」は、普段あまり意識しないと思います。
愛媛大学医学部附属病院の研究では、患者さん273人の顔のシワやたるみ、目元の角度など見た目の年齢を検査しました。そしてその方たちの血管の壁の厚さからわかる血管年齢を割り出し、見た目の年齢と比較したのです。その結果は、見た目の年齢が実年齢よりも若い人は、血管年齢も実年齢よりも若く、見た目の年齢が実年齢より老けている人は、血管年齢も同様に老いているというものでした。
つまり、人間の体の細胞の老化は、肌を見れば、その人の老化の状況を把握できるわけです。見た目を若々しくしたいのなら、血管の細胞など体の中から健康にならなければ効果が上がらないということも言えます。
皮膚は細胞と死んだ細胞でできている
肌の構造を見てみましょう。
人間の皮膚は「表皮」と「真皮」の二重構造で出来ています。真皮の下には皮下組織があり、皮下脂肪が蓄えられていて、エネルギーを蓄えるための貯蔵庫や、外部からの衝撃を吸収するクッションの働きをしています。また、脂肪は熱を伝えにくいため、体温の調整にも一役買っています。
表皮の厚さは0.1㎜ほどで、外部からの刺激や乾燥などから肌を守る防御機能や、体内の水分量を調整する保湿機能といった働きをしています。表皮組織の「表皮細胞」は底にある「角化細胞」という細胞で作られ、だんだん表面に移動していって2週間ほどで核をなくして角質(ケラチン)に変化します。そして、さらに2週間で角質は外側へと移動してあかとなってはがれ落ちます。
角質には細胞の核がありませんから、いわば「死んだ皮膚細胞」です。この角質の厚さは約0.01~0.03㎜と本当に薄いのです。
表皮組織は常にターンオーバーを繰り返して生まれ変わっています。表皮細胞が生まれてはがれ落ちるまで、平均して28日間、4週間ほどかかります。
真皮は厚さ2.0~3.0㎜。肌のハリ、弾力性を保ち、表皮と皮下組織をギュッと支える働きをします。「真皮細胞」は「線せん維い芽が細胞」、「真皮樹状細胞」とも呼ばれ、コラーゲン、ヒアルロン酸、エラスチンなどの「細胞外マトリックス」を作っています。
細胞外マトリックスとは耳慣れない言葉かもしれませんが、細胞が作り出す物質のことで、体のあちらこちらに存在しています。ここで挙げたコラーゲンやヒアルロン酸も細胞外マトリックスの一種ですし、コラーゲンを主な成分とする「骨」も細胞外マトリックスです。なお、真皮細胞の細胞周期(生まれ変わる周期)は5~6年です。
皮膚というのは、真皮という「スポンジ」の上を、「ハンカチ」のような表皮が覆っていて、さらにその上に「ガーゼ」のような薄い角質層(角層)が載っていると言うとわかりやすいでしょうか。
真皮の老化が「シワ」「たるみ」「クマ」を招く
真皮の老化では、肌のキメやハリがなくなったり、乾燥したり、シワやたるみ、クマができたりします。
真皮は細胞と全体の70~80%を占めるコラーゲンやエラスチン、ヒアルロン酸などの細胞外マトリックスでできています。コラーゲンは真皮の柱のような役割、エラスチンはコラーゲンを支えにしてゴムのような弾力性を与える役割、ヒアルロン酸は水分を保持してうるおいを与える役割を担っているのです。ちなみにヒアルロン酸は1gで500gもの水分を保持できるほど、高い保湿性を持っています。
そして、これら細胞外マトリックスが損傷されて機能が低下することで、真皮が表皮をつかまえる力が弱まると「シワ」ができ、皮下組織をつかまえる力が弱くなると「たるみ」ができます。
たるみの場合、皮下脂肪の下にある筋肉の衰えも原因の一つになりますが、主な真皮の老化は細胞外マトリックスなどタンパク質の損傷で起こります。
そういう損傷は真皮細胞(線維芽細胞)が活発でしたら、細胞外マトリックスを作り出して修復することができますが、加齢に伴って活性度が落ちていくと、コラーゲンなどの細胞外マトリックスの生成能力も落ちていき、メンテナンス能力も低くなるのです。
その結果、コラーゲンやエラスチンなどが劣化して皮膚のシワやたるみ、クマができていき、ヒアルロン酸が本来持っている保湿性も失われていき、肌のうるおいもなくなっていくのです。
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効果的な肌のアンチエイジング(老化防止)は
適度な飢えで老化を抑える
「腹八分に医者いらず」と日本では昔から言われてきましたが、英語にも「Light suppers make long life.(軽めの夕食は長寿の源)」ということわざがあります。経験則的にも腹八分目のほうが身体が快調という人が多いでしょう。食事は腹八分目にしたほうがいいことが、医学的に理にかなっていると言えます。
最近は必要以上にカロリーを摂ると、メタボリックシンドロームになって、動脈硬化や高血圧、糖尿病などの生活習慣病になりやすいという情報が普及しましたが、カロリーを制限したほうが長生きできるという研究は1980年代から行われています。
例えば、1991年に発表された東海大学医学部の橋本一男教授らの研究によると、食べ放題のグループのマウスの平均寿命が74週だったのに、食事量を80%に制限したマウスの平均寿命は122週。1.6倍も寿命が延びたと報告されています※1 。
カロリー制限で寿命が延びるのかどうか、1990年代にアメリカで巨大な密閉空間の中の人工生態系での生活実験で行われた興味深い研究結果があります。この研究の本来の目的は人類が宇宙空間に移住する場合、閉鎖された狭い生態系で生存できるか検証することでした。砂漠の中の「バイオスフィア2」というガラス張りの巨大なドーム内に熱帯雨林や海、サバンナなどの環境を作り、動植物による様々な生態系を再現し、8人の研究者が2年間、生活するというものでした。
「バイオスフィア2」自体は失敗に終わりました。想定した量の食料の収穫がなく、研究者たちは予定の4分の3程度、1日1,800キロ以下のカロリーの食事しか摂ることができませんでした。結果として、8人全員の体重は減少。そして、血糖値やコレステロール値、血圧などの生活習慣病に関わる数値が正常値になっていたというのです※2 。
通常の生活をしている人にとって1日に必要なカロリーは、体格や年齢によって上下しますが男性で約2,500キロカロリー、女性で2,000キロカロリーですから、1,800キロカロリーは男性で腹七分目、女性で腹九分目と同じかもしれません。 摂取カロリーを抑えた食生活を長期的に心掛ければアンチエイジング(老化予防)に効果があると言えるでしょう。
紫外線はなるべく避けるようにする
肌の老化の大きな原因は細胞の老化と同じです。
「紫外線」「酸化」「糖化」の三つです。
この中でも一番、肌にダメージを与えるのは紫外線です。
太陽から届く紫外線には「UVC」「UVB」「UVA」という3種類があります。
波長が短い方からUVC、UVB、UVAの順になるのですが、波長が一番短いUVCはオゾン層などで吸収されて、地球には届きません。次に波長が短いUVBは皮膚下0.1㎜まで2~8%くらい透過して、表皮細胞を破壊したり、新陳代謝の周期を乱して、シミやくすみなどの原因になります。
そして、一番波長が長いUVAは皮膚下0.1㎜で50~60%、0.5㎜で約7%、1.0㎜で約0.5%と、厚さ約0.3㎜の表皮を超えて真皮まで届き、表皮だけでなく、コラーゲンやエラスチン、ヒアルロン酸、真皮線維芽細胞を損傷してしまいます。
UVAは表皮細胞の底にある色素細胞にもダメージを与えます。色素細胞は、表皮と真皮の間にありますが、真皮は上のほうが波打つような形状になって表皮とつながっています。波打っている形状になっていることで、アコーディオンの蛇腹のように引っ張っても元に戻るような働きをしています。ですから、肌は指で押しても戻るような弾力性、ハリを持っているのですが、この働きは色素細胞が真皮の波打つ形状のところに鎖状に連なっていて、敷き詰められているように存在するからこそ保たれているのです。
しかし、強いUVAを長時間、厚さが約0.3㎜しかない表皮の底の色素細胞が浴びると、損傷して蛇腹の弾力性が失われて、肌の弾力性やハリもなくなってしまうのです。このことが、シワの原因の一つにもなります。