このページは更新されてから1年以上が経過しています。最新の記事は
こちらからご確認ください。
ピーリングにはいくつかの種類があり、美容皮膚科やクリニックで行うものだけではなく、市販されているピーリング剤を使うことで家庭でもセルフケアとして取り入れることができる美容法の一つです。
このページでは主に美容皮膚科やクリニックなどの医療機関で行う、酸などの薬剤を用いた「ケミカルピーリング」について詳しく解説します。
医療機関で行えるケミカルピーリングのみでなく、エステサロンで行うピーリングや、ホームケアで行えるピーリングなど、ピーリングに関しての様々な情報を総合的にまとめている記事はこちらです。
この先生が監修しました
北條 元治 先生
株式会社セルバンク代表取締役。東海大学医学部客員教授。
信州大学附属病院勤務を経てペンシルベニア大学医学部で培養皮膚を研究。帰国後、東海大学にて同研究と熱傷治療に従事。
2004年、細胞保管や再生医療技術支援を行う株式会社セルバンクを設立。2005年、RDクリニック開設に際し、培養皮膚の特許を供与。
著書に『ビックリするほどiPS細胞がわかる本』・『美肌のために必要なこと』他多数。
北條元治のYouTubeチャンネルはこちら
株式会社セルバンクは特定細胞加工物製造事業者として、再生医療の普及活動を行なっており、その一環として関連する医療・美容情報につきましても発信しております。
- Contents
-
-
ケミカルピーリングとは
-
ケミカルピーリングの効果とメリット
-
ケミカルピーリングの注意点
-
ケミカルピーリングに副作用やリスクはある?
-
ケミカルピーリングに用いられるピーリング剤の種類
-
ケミカルピーリングの深さ
-
肌再生の専門家によるピーリングに対しての見解
ケミカルピーリングとは
ケミカルピーリングとは、酸などの薬剤を肌に塗り、皮膚の表面を溶かしたり剥がすことで起こる効果や現象を利用した治療法のことをいいます。
ケミカルピーリングの歴史は古くから見られ、古代エジプトでは女王クレオパトラが肌を若々しく保つために発酵乳に入浴していたと言われています。1880年代になってからドイツの皮膚科医がピーリング剤として有効な成分に関する記述をして以降、医学的にケミカルピーリングが用いられるようになりました。その後、アメリカにおいて若返り療法のひとつとして人気を博し、発展を遂げました。それから、日本人を含む有色人種に対しても有効な治療法のひとつであるとされ、1994年に厚労省によりAHA(アルファヒドロキシ酸)を用いたピーリング剤の輸入許可が下り、その後、美容皮膚科やエステティックサロンでブームとなりました。しかし、2008年に改定された日本皮膚科学会のピーリングによる治療指針において、どちらかというと否定的な見解が出て今日に至っています。
ケミカルピーリングの仕組み
- ピーリング剤を使い皮膚表面の角質を溶かす
- 角質が溶けて剥がれることによって炎症反応が起きる
- 皮膚が再生する創傷治癒の過程を応用し、皮膚の再生を促す
ケミカルピーリングは、酸を使ったピーリング剤を皮膚の表面に塗布し、皮膚の表面と毛穴部分の角質を剥がし落とす治療法です。
酸、と聞くと「皮膚が溶けてしまう?」というイメージがあるかもしれませんが、ケミカルピーリングとは、まさに酸で皮膚の表面を溶かす行為です。酸を皮膚に塗ることで、代謝が低下している肌に対し、角質同士の接着を緩めて古い角質を剥がれやすくする効果があります。
ケミカルピーリングを行うと皮膚の表面が剥がれ、軽度の炎症反応が起きます。軽度の炎症反応が起きるということは、皮膚が軽い怪我をしているような状態ということです。この炎症反応を治そうとして働く“創傷治癒”の効果を応用し、表皮の再生を促進させ、角化細胞の形状や配列を整えたり、角質層の構造や機能を改善させる効果が得られると言われています。
皮膚の表面を溶かすということからも予想できる通り、強力な作用をもつ医療ピーリングは、エステやご自宅で行うピーリングよりもメリットが大きい分、リスクやデメリットも大きいということを知っておくことが大切です。安易に個人輸入などで手に入れた医療ピーリング剤を使うことは避け、信頼できる医療機関でしっかりと説明を受け、納得してから治療をすることをおすすめします。
ケミカルピーリングの効果とメリット
ケミカルピーリングを行うことで、ニキビ、小さいシミ、小ジワへの効果が期待できると言われています。しかし、これも、2008年に改定された日本皮膚科学会のピーリングによる治療指針において、どちらかというと否定的な見解が出ています。
ケミカルピーリングはニキビの改善に効果が期待できる?
毛穴から皮脂の排出ができずに溜まってしまい、それが原因となって皮膚が炎症を起こし、ニキビができる場合があります。その場合は、毛穴の詰まり改善を目的としてピーリングを行うことで、ニキビの改善に効果が期待できると言われています。これも、2008年に改定された日本皮膚科学会のピーリングによる治療指針において、どちらかというと否定的な見解が出ています。
ただし、ニキビの種類や症状によっては効果が期待できなかったり、ピーリングを行うことで症状が悪化してしまう可能性もあります。また、ニキビ跡に対してのピーリングの効果にはまだ充分な根拠がありません。ニキビへの効果を期待してケミカルピーリングを行う場合は、効果が見込めるかどうか、必ず医師に相談することをおすすめします。
ケミカルピーリングで小さいシミが改善できる?
紫外線の影響でできた日焼け後のシミなどの小さいシミに関しては、ケミカルピーリングを行うことで改善が期待できると言われています。ケミカルピーリングは、皮膚の表面を溶かして剥がす行為です。そのため、皮膚の表面にある軽度なシミであれば、剥がし落とすことができるということです。
ただし「そばかす」などの遺伝的な病気や「肝斑」などの女性ホルモンや紫外線で悪化する病気に関しては、容易に診断や治療をすることはできません。さらに、皮膚のシミは悪性度の高い皮膚癌などが潜んでいる可能性もあります。自己判断はせず、必ず信頼できる医師に診断してもらうようにしましょう。これも、2008年に改定された日本皮膚科学会のピーリングによる治療指針において否定的な見解が出ています。
ケミカルピーリングで小ジワが改善できる?
ケミカルピーリングを行うと皮膚の表面が剥がれ、軽い怪我をした時のような状態になります。身体が傷を治そうとする“創傷治癒”の効果を応用し、皮膚の再生を促すことで、小ジワなどの肌質の改善に効果が期待できると言われています。ただし、ケミカルピーリングでは深いシワの改善には効果は期待できません。
また、皮膚の表面を剥がしてしまうことでデメリットやリスクもありますので、治療を行う前にはよく検討することをおすすめします。
ケミカルピーリングの効果はいつから表れる?原則、複数回の定期的・継続的な治療が必要
ケミカルピーリングの効果の表れ方は、改善したい症状や、使用する薬品の種類・濃度によって異なるだけでなく、年齢などによる個人差や皮膚の状態、行う季節などによっても変わってきます。
「ニキビ」に対してケミカルピーリングを行った場合、治療直後より毛穴からの皮脂の分泌があったり、ニキビが自然に破れて膿が出やすい状態となります。治療を始めた直後は、原則として約2週間に1回ほどのペースで治療を続けるのが効果的だと言われています。治療を続けて新しいニキビが出てくるまでの期間が長くなったら、徐々に治療期間を空けていくと良いとされています。個人差があるため一概には言えませんが、中等度のニキビで平均6回、重症のニキビで平均10回ほどの治療後に改善の傾向が見られるといった場合があるようです。
「シミ」に関しては、浅いケミカルピーリングでは即効性は感じられないでしょう。「シミ」をケミカルピーリングで改善する場合、通常数回の治療で効果が感じられることは少なく、数ヶ月から年単位での治療を行う必要があることが多く、さらに他の治療法との併用を勧められるケースも多いようです。
「肌のくすみ」の改善に関しては、AHA(グリコール酸)を用いた場合、およそ4~5回程の治療で効果が感じられることが多いと言われています。
いずれにしても、具体的な回数には個人差がありますが、効果を実感できるようになるまでは原則複数回の定期的・継続的な治療が必要だといえます。
ケミカルピーリングの注意点
ケミカルピーリングは酸で皮膚の一部を剥がし落とす治療法です。皮膚の表面が剥がれると、肌は無防備な状態となり、普段よりも様々なトラブルが起きやすくなります。ケミカルピーリングを行った後は医療機関の説明通りにしっかりとケアを行う必要があります。
ケミカルピーリング後のケア方法
ケミカルピーリングを行うと角質層が剥がれ、皮膚のバリア機能を失い、紫外線が浸透しやすい無防備な状態となります。紫外線に当たると日焼けをするだけでなく、シミの原因となったり皮膚の老化スピードを早めてしまいます。通常でも美肌のためにUVケアは欠かせませんが、ケミカルピーリングを行った後は日傘と日焼け止めを併用するなど、普段以上に紫外線ケアを行う必要があります。
また、皮膚表面の角質層には肌の水分を保持する役割があります。ケミカルピーリングを行うと角質層が失われ、皮膚が乾燥しやすい状態となりますので、普段よりも入念に保湿ケアを行う必要があります。自分に合う保湿剤や乳液・クリームなどでしっかりと保湿ケアを行うことをおすすめします。
ケミカルピーリングを受けられない場合がある?
詳しくは医師による診断が必要となりますが、以下の方はケミカルピーリングを受けることができない場合があります。
- 治療中の病気がある方
- 妊娠中・授乳中の方
- 傷あとが残りやすい方(ケロイド体質の方)
- 免疫不全状態の方
- 治療予定の部位に傷がある方
- 皮膚にウイルス感染がある方
- 皮膚の疾患に対してステロイド剤を使用している方
- 特定の内服薬を服用している方
- 日常的に紫外線を浴びる機会が多い方(アウトドア、日焼けサロンなど)
ケミカルピーリングの施術を受ける前に知っておくべきこと
ケミカルピーリングを行う前日や直前に顔剃り・パック・スクラブ洗顔などで角質にダメージを与えてしまうと、想定よりも深いピーリングとなってしまうため、避けたほうが良いでしょう。また、1ヶ月以内にケミカルピーリング、レーザー、電気・ワックス脱毛などの他の治療を受けている場合、ケミカルピーリングを行えないことがあります。口唇ヘルペスやとびひ(伝染性膿痂疹)がある場合も、治癒するまではケミカルピーリングを行えません。
ケミカルピーリングに副作用やリスクはある?
ケミカルピーリングは酸で皮膚の表面を溶かす治療法です。医療機関でケミカルピーリングを行う場合、症状や皮膚の状態に合った深さでケミカルピーリングを行うために、どの薬剤をどれくらいの割合で使用するか、医師が判断することになります。しかし、体調や皮膚の状態などにより副作用が起こってしまう可能性もあります。
ケミカルピーリングの副作用とリスク
ケミカルピーリングの副作用には、主に以下のようなものがあります。
皮膚の赤み
ケミカルピーリングでは、皮膚の表面を剥がすため、皮膚が敏感な方や体調、体質などによっては、皮膚に炎症が起き、肌に赤みが出てしまう場合があります。中には、ピーリング剤に対するアレルギーで赤みや痒みなどの症状が出る方もいます。
色素沈着
日本人を含むアジア人の肌は、白色人種に比べて色素沈着が起こりやすいと言われています。海外では、酸性度や濃度の強いピーリング剤を用いて深いピーリングを行うこともありますが、日本人に同じ条件でケミカルピーリングを行ってしまうと色素沈着のリスクが高まるため、医療機関では治療中に皮膚の状態をよく観察し、適切な酸性度・濃度・反応時間となるよう調節する必要があります。
乾燥
皮膚の表面にある「角質層」は、肌のバリア機能として水分を保持するなど、皮膚を守る役割を果たす大切な部分です。ケミカルピーリングを行うことで、一時的にこの角質層を取り除いてしまうため、肌はバリア機能が無くなった大変無防備な状態となり、ふたたび角質層が出来上がるまで乾燥しやすい状態となります。
傷跡が残る場合がある
稀にケミカルピーリングを行った後に、傷跡として残ってしまう場合があります。中には、傷跡が赤く腫れてしまうケロイドという副作用が起きてしまう場合もあります。
ケミカルピーリングにダウンタイムはある?
ケミカルピーリングを行うと、多くの場合、肌にピリピリとした刺激が感じられます。また、ケミカルピーリング後は皮膚が赤くなったり、乾燥してカサカサしたりしますが、多くの場合は2~3日で落ち着きます。皮膚がダメージを受け、無防備な状態となっていますので、しっかりと紫外線対策・保湿ケアを行いましょう。
また、場合により水ぶくれや浅い傷・小さいかさぶたができることもあります。不安な症状が起きたら自己判断せず、皮膚科専門医に相談することをおすすめします。
ケミカルピーリングに用いられる
ピーリング剤の種類
酸を使ったピーリングである「ケミカルピーリング」に用いられるピーリング剤にはいくつかの種類があります。現在、国内で用いられているピーリング剤には、大きく分けて主に以下の4種類があります。
ケミカルピーリングではこれらの薬品を、疾患や状態に合わせて濃度を変えたり、組み合わせて使用し、デメリットを最小限に抑えます。日本人の肌にはグリコール酸が最もマイルドで比較的安全に使用できるため、多くの医療機関で用いられています。
AHA(alpha hydroxy acid:アルファヒドロキシ酸)
AHA(アルファヒドロキシ酸、アルファハイドロキシ酸、αヒドロキシ酸)は、果実や野菜などに含まれている酸の総称で、フルーツ酸とも呼ばれる、ピーリング剤として最も主流となっている酸です。AHAは、皮膚のターンオーバーを活発にして角質をはがし、皮下組織への水分保持をもたらすと言われています。
ピーリング剤として使用されているAHAにはいくつかの種類があります。
- グリコール酸
- サトウキビやタマネギなどから抽出される酸
- 乳酸
- サワーミルクやヨーグルトから抽出される酸
- リンゴ酸
- 青リンゴから抽出される酸
- 酒石酸
- ブドウや古いワインから抽出される酸
- クエン酸
- 酢や柑橘類に含まれる酸味成分の一種
特に“グリコール酸”や“乳酸”は分子量が小さいため肌への浸透性が高く、低濃度で効率よく効果が期待できるとされ、ピーリング剤としてよく用いられています。
グリコール酸などのAHAを皮膚に塗ることで、レンガの壁のような構造になっている角化細胞同士の繋がりを弱め、表皮を剥がしやすくし、ターンオーバーを促進すると言われています。レンガ同士を繋ぐセメントを溶かすようなイメージです。
米国におけるピーリング剤としてのAHA濃度の基準
日本におけるケミカルピーリングの歴史はまだ浅く、AHAの濃度などに関する規制等はまだ定められておりません。しかし、同じAHAと言っても高濃度(30%以上)や低pH(2以下)ではリスクが激増するため、米国では以下のように規定されています。
- 化粧品の場合は10.0%未満、pH3.5以上
- 訓練された技術者(エステなど)は30.0%未満、pH3.0以上
- 医師は30.0%以上、pH3.0以下
(米国化粧品業界団体、化粧品成分調査委員会CIR報告)
BHA(beta hydroxy acid:ベータヒドロキシ酸)
BHA(ベータヒドロキシ酸、ベータハイドロキシ酸、βヒドロキシ酸)は、一般的に「サリチル酸」と呼ばれる、分解作用のある成分です。サリチル酸は、皮脂に近い性質があるため角質の軟化や融解作用があり、AHAを使ったケミカルピーリングよりも角質を剥離する効果が高いと言われています。
サリチル酸マクロゴールとは
サリチル酸は以前よりピーリング剤として用いられていましたが、サリチル酸自体が強力な溶解作用を持つことに加え、従来のものはエタノールに溶解されていたため、皮膚への刺激が強く、痛みや発赤・炎症が起こるリスクがありました。
現在はこのサリチル酸を、保護剤としての役割を持つ「マクロゴール」という基剤と組み合わせることで、皮膚深部へ浸透するのを防ぎ、角質層のみを剥離できるよう改良され普及しています。
サリチル酸マクロゴールによるケミカルピーリングは、皮脂の分泌過多が原因で起こる皮膚や毛穴のトラブル(ニキビ)に対する効果が高いと言われています。角質層以外の細胞を傷つけることがほとんどなく、炎症も起きにくく、安全性が高いと言われています。
TCA(トリクロロ酢酸)、フェノール
TCA(トリクロロ酢酸)やフェノールは、サリチル酸よりも強力な剥離作用がある酸で、皮膚の深くまで浸透させるディープピーリングに用いられます。
強力な剥離作用を持つ分、施術後2~4週間は皮膚が炎症で腫れ上がったり、ぽろぽろ剥けたりするなど、ダウンタイムの負担が大きいというデメリットがあります。欧米ではポピュラーなピーリング剤ですが、黄色人種では色素沈着の可能性もあるため、日本人には向いていないピーリング剤だといえます。
ケミカルピーリングの深さ
ケミカルピーリングによる治療効果の面で重要なのは、使用する薬剤の種類よりも、皮膚のどの深さまで剥離させるかという点(剥離深度)です。ピーリング剤が皮膚へ浸透する深さは、主に以下の4つのレベルに分けることができます。
レベル |
剥離深度 |
ピーリング剤の種類と濃度の例 |
極浅いピーリング (very superficial) |
角層のみ |
AHA、BHA、TCA(10-25%) |
浅いピーリング (superficial) |
表皮顆粒層から基底層の間 |
中位のピーリング (medium-depth) |
表皮と真皮乳頭層の一部から全部 |
TCA(35%)やフェノール |
深いピーリング (deep) |
表皮と真皮乳頭層および網状層に及ぶ深さ |
フェノール、高濃度のAHA(50%超)、TCA(40%超) |
ケミカルピーリングは皮膚を剥がし落とす治療法ですので、深いピーリングを行うほど皮膚への負担は大きくなり、リスクも高まります。深いピーリングを行えば効果も高まるように思えますが、実際には深ければ良いというものではありません。求める効果が期待できるかどうか、医師による診断が必要です。信頼できる医療機関でしっかりと説明を受けて、デメリットよりもメリットが上回るよう、自分に合った治療法を選ぶことをおすすめします。