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紫外線は地球へ降り注いでいる太陽光の一つです。
太陽光には、目に見える「可視光線」、熱として感じる「赤外線」、目にも見えず熱も持たず、感じることもできない「紫外線」があります。
太陽光はプリズムで赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の7色に分光されますが、この7色が可視光線です。赤、橙、黄……の順で波長は短くなり、紫外線は紫色の可視光線よりも波長が短い太陽光、電磁波なのです。紫外線よりも波長が短い太陽光線にはエックス線、ガンマ線、宇宙線があります。これらは放射線とも呼ばれ、有害性は強力ですが、地球を覆うオゾン層に阻まれるため、地球には達しません。
そして、電磁波は波長が短いほどエネルギーが大きいため、物質に化学変化を起こしやすい性質を持っています。例えば、ペットボトルを日の当たるところに置いておくと、どんどん劣化していって、ぼろぼろになっていきます。これは紫外線がプラスチックに化学変化を起こさせているからです。同様に紫外線などの波長の短い電磁波は、体内の酸素分子や水分子を刺激して酸素を活性酸素に変えるという化学変化を起こして、人体に有害な影響を及ぼすのです。
紫外線は百害有って一利無しです。シミはできますし、シワもできます。高頻度で皮膚がんも引き起こすのも紫外線です。
この先生が執筆しました
北條 元治 先生
株式会社セルバンク代表取締役。東海大学医学部客員教授。
信州大学附属病院勤務を経てペンシルベニア大学医学部で培養皮膚を研究。帰国後、東海大学にて同研究と熱傷治療に従事。
2004年、細胞保管や再生医療技術支援を行う株式会社セルバンクを設立。2005年、RDクリニック開設に際し、培養皮膚の特許を供与。
著書に『ビックリするほどiPS細胞がわかる本』・『美肌のために必要なこと』他多数。
北條元治のYouTubeチャンネルはこちら
- Contents
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- なぜ紫外線が肌のトラブルを起こすのか?
- 紫外線は肌の老化を加速度的に進める
- 紫外線対策以外、肌の特別なケアは必要ない
- 紫外線を沢山浴びてしまったら
- 老化と紫外線についての詳しい内容は書籍に掲載されています
なぜ紫外線が肌のトラブルを起こすのか?
真皮の中でスポンジのような役割を果たしているコラーゲンやエラスチン、水分を蓄えているヒアルロン酸も、UVAで損傷を受けます。すると、表面の圧力に耐えられなくなり、肌にシワやたるみができてしまいます。コラーゲンなどの損傷を補修する真皮線維芽細胞もUVAでダメージを受けているため補修能力が落ちて、さらにシワやたるみができてしまうのです。このことを「光老化」と言います。
そして、この光老化はシワやたるみだけでなく、シミも作ります。UVAで損傷を受けた色素細胞にエラーが起こり、メラニン色素をどんどん作りだしてしまうためです。
表皮の底のほうにある表皮細胞もUVAで損傷を受けて、通常のように分裂、増殖ができなくなってしまいます。その結果、あかとなってはがれ落ちていくサイクルも遅くなり、色素沈着が進むのです。
また、過剰に作られたメラニン色素は表皮から真皮にも漏れ出していきます。
本来、真皮に漏れたメラニン色素は、免疫機能で「マクロファージ(死んだ細胞を掃除する白血球の一種)」に捕食されて、リンパ管や血管を通して体外に排出されるのですが、真皮組織がUVAで損傷されると、真皮の表面に留まり、色素沈着を起こすのです。
さらに、免疫力が落ちるためにイボなどの感染症を起こしやすくなりますし、DNAが紫外線で損傷されて変異した表皮細胞ががん化して、皮膚がんも発症しやすくなります。実際、強い紫外線を長時間浴びてシミやシワが多い人が、その後皮膚がんになってしまったケースを、私も数多く診てきました。
昔は日焼けには「健康」というイメージがありました。
かつては、「太陽の光を浴びることは健康増進につながる」と医学的にも考えられていて、私が赤ちゃんだった時代の母子手帳には「日光浴をしていますか?」という項目がありました。ところが、私の子どもの母子手帳にはそのような項目はありません。
これは昔は「日光浴をしないと、体内でのビタミンDの合成がうまくできず、くる病という乳幼児の骨格異常が起こる」と言われていたためです。くる病はビタミンDの代謝障害でカルシウム、リンの吸収が進まず、骨の石灰沈着障害が起こります。ただ、日照時間の短いヨーロッパ北部などはともかく、現在の日本ではくる病はほとんど発症していません。
子どもも大人も、意識して日光を浴びなくても、ビタミンD合成に必要な日光は、日常生活の中で十分に浴びていると考えていいでしょう。
紫外線は肌の老化を加速度的に進める
紫外線は細胞のDNAやコラーゲンなどを直接損傷させるだけでなく、肌の中の水分子や酸素分子を刺激して「活性酸素」も生み出します。そして実は肌の光老化は、紫外線自体による損傷よりも、活性酸素によるダメージのほうが大きいと考えられているのです。
活性酸素は表皮の炎症、つまり日焼けも起こしますし、表皮細胞の新陳代謝の周期も乱します。色素細胞に異常を起こしますし、真皮の真皮線維芽細胞の機能を低下させたり、コラーゲンなどを損傷させたりします。活性酸素による酸化で肌に損傷を与えるのですが、紫外線自体のダメージと二重攻撃になりますから、被害は甚大になってしまうのです。
また、傷ついた表皮細胞、真皮線維芽細胞はフル稼働で補修しようとします。すると、細胞の中でエネルギーを生み出している「ミトコンドリア」が通常よりも大きなエネルギーを作り出すので、そこからも活性酸素が生まれます。
さらに、細胞と細胞外マトリックスが弱まってしまうので、糖化されやすくなり、「AGEsエイジス(糖化タンパク)」になってしまいます。そのため、肌の中にはAGEsや作り過ぎになったメラニン色素などの老廃物がたまっていってしまうのです。
さらに、紫外線はもう一つ、重大なダメージを与えます。
真皮の中には血管(毛細血管)とリンパ管が走っているのですが、肌の細胞やコラーゲンと同じように紫外線と紫外線によって発生する活性酸素で損傷を受けてしまいます。
肌の中で血管とリンパ管は大変重要な働きをしています。血管の動脈は栄養や酸素を供給して、血管の静脈とリンパ管は肌の老廃物を回収するとても大切な器官です。例えば、AGEsやメラニン色素などの老廃物は、静脈やリンパ管を通じて、回収されています。紫外線で血管やリンパ管がダメージを受けると、栄養や酸素が運ばれなくなって新陳代謝が進まず、老廃物はたまっていく一方になるのです。
また、血管とリンパ管は肌の免疫機能を担っています。血管から「好中球」と「マクロファージ」、リンパ管から「リンパ球」が飛び出して、表皮、真皮に異常がないかをパトロールしているのです。
そのため、血管、リンパ管がダメージを受けると、免疫機能も低下してしまいます。
免疫機能低下自体も老化の一つの現象ですが、ほかの要因による老化も加速度的に進んでいき、悪循環に陥ってしまうのです。
紫外線を長時間、大量に浴びると、イボなどの感染症、皮膚がんになりやすくなるのも、免疫機能が正常に働かなくなることが一因です。
紫外線対策以外、肌の特別なケアは必要ない
肌の老化にとって、紫外線がいかに有害な存在か、わかっていただけたと思います。
紫外線が強い初夏や夏、そして海岸や雪山などの場所で長時間、強い紫外線を浴びると、肌は強いダメージを受けてしまいます。長袖・長ズボン、帽子、サングラス、日傘などで、できるだけ紫外線を避けるようにしましょう。衣類などで紫外線の70%をカットすることができます。顔や首筋など衣類で覆えない部分はサンスクリーン剤(日焼け止め)を活用するようにします。
ただ、サンスクリーンの成分によってアレルギー反応を起こすこともあります。パッケージに記されているSPF値(紫外線防護係数)が高いほど効果がありますが、SPF値が高いほどアレルギー反応が起きるリスクも高まります。
日常生活ではSPF値15程度、海や山に出掛けるときなどはSPF値30前後の製品がいいでしょう。いずれにせよ、自分の体質にその製品が合っているかどうか、腕などに塗って確かめる必要があります。少しでもかゆみを感じたら、その製品は避けてください。
サンスクリーン剤には「PA値」という指標もあります。これは先ほど述べた紫外線の中の「UVA」をどれだけ遮断できるかを表しています。効果があるとされる「PA+」から、より効果のある「PA++++」まであります。
紫外線を沢山浴びてしまったら
もし紫外線をたくさん浴びてしまったら、どうしたらいいのでしょうか。
「日光皮膚炎」と呼ばれるひどい日焼けの場合、非ステロイド性消炎鎮痛薬や副腎皮質ステロイド薬を皮膚科医に処方してもらうべきですが、通常レベルの日焼けの場合、βカロテン(ビタミンA)、ビタミンC、ビタミンEなどの抗酸化物質を摂ることが有効です。
βカロテンは、体内でビタミンAに変わる抗酸化物質であり、細胞膜やDNAを活性酸素による酸化から守ってくれます。緑黄色野菜に多く含まれています。
ビタミンCは紫外線対策をうたう化粧品にも使われていますが、シミなどの原因になるメラニン色素の生成を抑える働きがあります。また、肌のコラーゲンやエラスチンの生成を促進するのです。さらに、抗酸化力も持ち、酸化したビタミンEなどを還元する能力もあります。ピーマンなどの野菜や、レモン、イチゴなどの果物に多く含まれます。
ビタミンEも抗酸化力を持ちますが、ビタミンCが水溶性であるのに対し、ビタミンEは脂溶性(油溶性)で、不飽和脂肪酸を含んでいる細胞膜や核膜に溶け込んで、細胞を酸化から守ってくれます。アーモンドなどのナッツ類や、ひまわり油など植物性の油に多く含まれています。魚卵にも多く含まれていますが、塩分が高いので摂り過ぎには注意が必要です。