秦の始皇帝が不老不死の妙薬として愛飲していたと言われるプラセンタ。
ヒポクラテスは薬として治療に、楊貴妃、クレオパトラ、マリー・アントワネットはアンチエイジングのために常用していたと言われています。
プラセンタ注射は1959年に、厚労省から“肝硬変”の治療薬として認可を受け、現在は更年期障害、乳汁分泌不全、肝機能障害に対して保険適応でプラセンタ療法として治療を受けることができます。
その他にも、アトピー性皮膚炎、傷の治りの促進や、疲労回復、不眠症の改善、ニキビ・ニキビ跡の改善、美白、肌の張り、シワの改善等々、数々の効果が謳われています。しかし、これらの症状に対してプラセンタを使う場合には、健康保険は適応されず、すべて自費診療となります。
ところがしたがい、美白や美肌、アンチエイジングなどへプラセンタの効果については、明確なエビデンスはなく、医師の間でも賛否が分かれているのも事実です。
実際に美容目的でプラセンタ注射を行っている医師は「びっくりするほど効果があった」という患者 からの声を聞いて効果を確認している反面、プラセンタに対して安全性に不安をもち、その使用に懐疑的で、美容目的でプラセンタ注射を行う医師は悪徳だ、という医師もいます。
プラセンタは本当に美肌やアンチエイジングに効果があるのでしょうか。
プラセンタって何?
プラセンタとは哺乳動物の胎盤のことです。
胎盤は胎児と母体を繋ぐインターフェースとして、各種栄養成分や成長因子の供給、排泄物などの処理を行っています。
人間以外の哺乳動物は、出産すると本能的に自分の胎盤を食べてしまいます。その一番大きな理由は、非常に良質な栄養源だからです。補足的に、胎盤にはには自然治癒力を回復させ、出産による体力低下を速やかに回復させる効果があるのではないかとも言われています。
プラセンタの歴史は古く、1933年、旧ソ連の眼科医が「組織療法(様々な組織を、治療の目的で人体に移植(皮下に埋め込む)すること)」にプラセンタを使用したのが始まりと言われています。
日本人では、当時、満州医科大の教授稗田博士が戦争で怪我をした兵士への治療に、組織療法として角膜、肝臓、胎盤などを実験的に移植しましたとされています。その結果、胎盤での効果が著しいことがの可能性がわかり、日本に帰国後、胎盤の研究に邁進し、1950年には組織療法を研究する組織療法研究所(フィラートフ会)が設立され、安全で投与法も簡便な製剤として「プラセンタ注射製剤」(正式にはヒト胎盤抽出物由来製剤)が出来上がりました。
プラセンタ注射製剤の原材料は人間の胎盤から抽出した胎盤製剤です。
因みに、薬局や薬店等で売ってる化粧品、サプリメントのプラセンタは、人間ではなく豚、馬、羊、海洋性プラセンタ、植物性プラセンタを使用しています。
プラセンタの成分
プラセンタには10数種のアミノ酸に加えタンパク質、脂質、糖質などの三大栄養素はもちろん、身体の働きを整えるビタミン・ミネラル・核酸・酵素といった生理活性成分、細胞の新陳代謝を促す成長因子などの栄養素が豊富に含まれています。
プラセンタの主な成分
- ・ウラシル
- ・アデニン
- ・グアニン
- ・チミン
- ・シトシン
- ・アミノ酸 リジン
- ・アラニン
- ・アスパラギン酸
- ・ロイシン
- ・グルタミン酸
- ・アミノ酢酸
- ・バリン
- ・セリン
- ・チロシン
- ・フェニルアラニン
- ・トレオニン
- ・アルギニン
- ・プロリン
- ・シスチン
- ・イソロイシン
- ・メチオニン
- ・ヒスチジン
- ・ミネラルナトリウム
- ・カリウム
- ・カルシウム
- ・マグネシウム
- ・リン
- ・鉄
- ・キサンチンなど
プラセンタに含まれる主な成長因子(GF)
- ・肝細胞増殖因子(HGF)
- ・神経細胞増殖因子(NGF)
- ・上皮細胞増殖因子(EGF)
- ・線維芽細胞増殖因子(FGF)
- ・インシュリン様成長因子(IGF)
- ・免疫力を向上させる成長因子
- ・インターロイキンⅠ
- ・インターロイキンⅡ
- ・インターロイキンⅢ
- ・インターロイキンⅣ
生命維持に必要なものはほぼ含まれていると言っていいでしょう。
ところが、プラセンタ注射製剤のこれらの含有成分は非常に微量で、効果については実証されていても、作用機序については解明されていない部分が多いのが実情です。
プラセンタ注射の種類
プラセンタ注射製剤には「メルスモン」と「ラエンネック」の2種類があります。
メルスモンの適応は更年期障害と乳汁分泌不全症で皮下注射。
一方、ラエンネックの適応は慢性肝疾患に於ける肝機能の改善で、皮下もしくは筋肉注射、とそれぞれ認可されている保険適応の病名と用法が違います。
また、同じ人間の胎盤を原料としていても、抽出方法が違うため成分も違います。
メルスモンは臍帯※1)(へその緒)や羊膜※2)を除いた胎盤を使用しています。
塩酸による高熱の加水分解法による抽出法で、サイトカイン(免疫細胞から分泌されるタンパク質)等のタンパク反応がなくなるまで細かく分解するため、出来上がったメルスモン注射製剤の成分には各種アミノ酸、ミネラル、核酸関連成分、キサンチン等は確認出来ていますが、成長因子(GF)等は確認されません。
また、メルスモンにはベンゼルアルコールが含まれているため、静脈注射での使用は命に関わります。
一方、ラエンネックは臍帯と羊膜付きの胎盤を使用しています。
消化酵素を用いて分解し、その際にできる上澄み液の一部を最初の段階で取り分けておき、それ以外を加水分解したところへ、取り分けて おいた上澄み液を加えるという方法で抽出します。上澄み液にはサイトカインなどを含む低分子の蛋白質が含まれていると考えられており、メルスモンと比較すると臍帯や羊膜に含まれる有効成分の残存が多く、細胞増殖因子やサイトカイン等の効果も期待出来ると言われています。成分上は皮下注射・筋肉注射以外の静脈への投与も問題はありません。
プラセンタ注射の効果とメリット
現在治療薬として認可を受けている作用以外にも、プラセンタには以下のような薬理作用があると言われています。
薬理作用
- 免疫賦活・調整作用
- 自律神経調整作用
- 内分泌調整作用
- 基礎代謝向上作用
- 抗酸化作用
- 強肝・解毒作用
- 抗アレルギー作用
- 抗炎症作用
- 血行促進作用
- 疲労回復
- 保湿
- 美白作用
- 美肌
- 育毛促進
プラセンタには様々な有効成分が含まれていますが、どれも微量なため、それがどのように生体へ影響を及ぼしているのかはまだ解明されていません。
美容目的でのプラセンタ療法
美容目的でのプラセンタ療法は自費診療です。そのため、医療機関ごとに値段、方法も違います。
プラセンタを点滴で投与している医療機関もありますが、メルスモンは「皮下注射」、ラエンネックは「皮下または筋肉注射」であり、血管への注射や点滴の指示はプラセンタ製剤の製薬会社からはなされていません。
血管内投与は、身体の構成要素やエネルギーになる物質、つまりアミノ酸やブドウ糖、ビタミンなどの栄養素、カルシウムやカリウムなどの電解質、血液などを補給するために行われます。
一方、皮下・筋肉注射は身体の機能を高める栄養因子(trophic factor)、サイトカインなどの調節因子、インスリンなどのホルモン、 プラセンタに含まれるHG などの増殖因子を補給するのに適した投与法です。
プラセンタの投与法の違いは、効き方にも影響すると考えられています。
血管内に投与した場合には、数時間で体外へ排泄され、 皮下・筋肉注射ではゆっくりと吸収され、効果は3日から1週間程度持続すると言われています。
また、2009年には美容目的での静脈内へのプラセンタ投与により、アナフィラキシーショックを起こしたケースが報告されています。効果・安全面においても、他の成分と組み合わせたカクテルと称する点滴や静脈注射でのプラセンタ注射は、よく検討して行うことをお勧めします。
プラセンタ注射の美容効果
プラセンタ注射をしたからといって必ず美肌になったり、シミが消えたりシワが改善するとは限りません。
ただ、プラセンタ療法での効果が認められている抗炎症作用、抗酸化作用、肝細胞再生作用等が総合的に全身に作用した結果、肌の艶が良くなり美肌になったりシミが薄くなったりということは十分考えられますし、実際にその効果を実感している人がいることも事実です。
治療可能部位と持続期間
|
プラセンタ |
肌の再生医療 |
ほうれい線 |
× |
○ |
顔・たるみ |
× |
○ |
シワ・若返り |
○ |
○ |
上まぶたのくぼみ・三重まぶた |
△ |
○ |
目の下のクマ・シワ |
△ |
○ |
スキンケア |
△ |
○ |
持続時間 |
数日から数週間 |
根本治療(数年以上) |
持続期間 数日~数週間 根本治療(数年以上)
1回のプラセンタ注射の持続効果は長くて数週間。
ほとんどの方が、定期的に治療を受けています。