変形性膝関節症に対する再生医療

脂肪由来幹細胞療法(培養幹細胞)

保田医師

この先生が監修しました

保田 真吾 先生

膝の痛み専門 大阪梅田セルクリニック 院長。京都大学医学博士。

変形性膝関節症の症例を数多く経験。
「和顔愛語 先意承問」の精神で、丁寧な診察を心がけている。

膝の痛み専門 大阪梅田セルクリニック

Contents
  1. 脂肪由来幹細胞とは
  2. 治療法
  3. 治療の効果
  4. 痛みが改善する働き
  5. メリット
  6. デメリット
  7. 効果の決め手は細胞の質

これから期待される再生医療として、自己脂肪由来幹細胞療法があります。
これは、自分の脂肪組織から分離した幹細胞を増殖培養させ、5000万~数億個程度まで増やした後、体内や患部に注射により細胞を送り込むという方法です。

脂肪由来幹細胞とは

幹細胞による再生医療の中で、最も医療への応用が進んでいるのが「組織幹細胞(体性幹細胞)」です。
組織幹細胞は、皮膚や脂肪、血液のように、きまった組織や臓器で、絶えず分裂を繰り返しコピーをつくり続けており、何にでもなれるわけではありません。

組織幹細胞の種類

  • ・血をつくる造血幹細胞
  • ・神経系をつくる神経幹細胞
  • ・骨髄や脂肪をつくる間葉系幹細胞

これまで、組織幹細胞は、神経系であれば神経系の細胞のみというように、役目が決まっていると考えられていました。しかし、骨髄の中に存在する間葉系幹細胞は、筋肉や軟骨、脂肪、神経などに分化する、いわゆる「多分化能」を持つことが明らかになってきました。つまりES細胞やiPS細胞と同様に、いろいろな細胞になり得る細胞なのです。
さらに近年では、骨髄に存在する間葉系幹細胞と似た性質をもつ幹細胞が皮下脂肪内にも多く存在するということがわかってきました。

これは「脂肪由来間葉系幹細胞(Adipose-Derived Mesenchymal Stem Cell, ASC)」といわれ、組織幹細胞の中でも採取が簡単で、組織量も豊富に存在することから治療細胞として注目されています。「自己複製能」と「多分化能」を持つ脂肪由来間葉系幹細胞は、脂肪だけでなく、骨、軟骨、神経、筋肉、心筋、血管など、多様な細胞に分化することが明らかになっています。
変形性膝関節症への再生医療による治療では、この脂肪由来間葉系幹細胞を用いて行われます。

一般的に、膝関節の軟骨や靱帯に損傷などの障害が発生すると、損傷部位から修復要請の信号が発信されます。その信号を受け取った幹細胞は、ダメージを受けている部位に集まります。そこで必要な細胞に変化(=分化)することで、細胞器官が修復・再生し症状が改善します。このように、幹細胞が傷ついた部位に集まろうとする仕組みをホーミング効果といいます。3~6ヶ月で目的の細胞に分化し傷んだ部位を修復します。脂肪由来幹細胞にも、このホーミング効果を期待して、変形性膝関節症の治療に用いられています。

治療の理論

変形性関節症の痛みは、軟骨のすり減りによって膝関節の組織のダメージがあることです。
膝関節の組織や特に軟骨を修復することができれば、変形性関節症による痛みは改善されます。

ダメージを受けた組織に幹細胞を投与することで、細胞が集まってきたり、血管が新しく出来たり、細胞で組織を構成し、コラーゲン、ヒアルロン酸などで構成された足場と呼ばれる立体的構造を作るなど、新しい組織を作るうえで必要なものが集まります。

そして集まった細胞、足場に対して、物理的な負荷を加えることで、その場所に必要な強度や物性を持った組織(軟骨や柔軟な関節包など)を作ります。ですので、組織にリハビリやストレッチなど物理的負荷を加えることも必要で、それらを怠ると硬い組織ができてしまい、痛みの元になることもあります。

治療法

脂肪由来幹細胞療法は、ご自身から採取した脂肪組織から間葉系幹細胞を分離して数千万~数億個ほどまで培養し培養し、幹細胞を患部に注入することにより、患部の疼痛の軽減や、損傷した組織の修復を目的とする治療です。

患部に注入する際は、幹細胞は関節包の中に注入するイメージです。関節包の中の空間に関節液があり、そこの空間に入れるような形です。関節包の中に全体に行き渡ります。注入して関節表面全体に行き渡るようになります。

  • 血液検査

    培養幹細胞治療を行うにあたり、術前に以下の感染症検査が必要です。

    • ・B型肝炎ウイルス
    • ・C型肝炎ウイルス
    • ・梅毒
    • ・ヒト免疫不全ウイルス

    血液を採取しているイメージ

  • 皮下脂肪の採取

    局所麻酔または局所麻酔+静脈麻酔のもと、お腹、お尻、両太ももなどから約10-30mLの脂肪(脂肪組織)を、採取します。

    血液を採取しているイメージ

  • 細胞の培養

    採取した脂肪は、厚生労働省から許可を得た細胞培養加工施設(CPC)に送られ、約6週間の細胞培養と無菌検査を実施し、細胞を増やします。

    採取した細胞を培養しているイメージ

  • 培養幹細胞の移植

    培養した脂肪由来幹細胞を患部へ注入することで、軟骨に代わる新しい組織が生まれます。

    培養した脂肪由来幹細胞を患部へ注入し、軟骨に代わる新しい組織が生まれるイメージ

治療の効果

傷んだ軟骨が再生されることで、痛みや炎症などが減少し、根本的な膝痛が改善される効果が期待できます。

痛みが改善する働き

痛みには、サイトカインなど炎症性の物質がたくさん関わっています。幹細胞には、痛みが改善する2つの働きがあると言われています。

1つは、炎症性の物質がかかっているメカニズム自体を抑える働きがあります。幹細胞自体が様々な物質を出して、炎症を抑えていきます。そして、炎症を抑えることによって痛みを軽減していきます。

2つめは、半月板や軟骨や骨など、組織が傷んでいる箇所を、幹細胞自体が修復していくというメカニズムがあります。また、幹細胞はサイトカインや成長因子以外にも、エクソソームという物質を出します。それらの物質が痛みを抑えたり、組織の再生に関わってるといわれてます。

高い修復力

脂肪由来幹細胞は、PRPと比較すると、幹細胞の特徴から更に修復力が強いです。軟骨がすり減ったところに細胞がくっつき、組織を再生していきます。再生医療という名前の治療では、幹細胞が一番ふさわしいかもしれません。

メリット

  • ・採取が容易で採取量が少ないので体の負担が少ない
  • ・ご自身の脂肪組織から作成される培養幹細胞のため、アレルギー反応などの副作用が極めて低い
  • ・分離した脂肪由来幹細胞は、適切に保管すれば生涯治療に応用できる
  • ・創傷治癒や瘢痕治癒を増強する重要な遺伝子を刺激する効果も期待出来る
  • ・新しい組織を作るだけではなく、周囲の組織を活性化して修復機能を促す効果も期待できる
  • ・必要があれば何度でも受けることが出来る。
  • ・治療の入院が不要で、日常生活への支障がほぼない

大きな違いは、治療に対して期待できる効果が症状の進行を一時的に遅らせたり、痛みを経験させるためだけの対処療法ではなく、根本治療であるということです。

デメリット

脂肪由来幹細胞の治療は副作用も少なく安全な治療ですが、医療行為ですのでリスクがゼロとは言い切れません。以下、デメリットとしてこのようなことが挙げられます。

  • ・治療が完了するまでに時間がかかる(半年目安)
  • ・社会保険・国民健康保険など公的医療保険の適用外のため、自由診療になり医療機関による費用に差がある
  • ・注射による反応痛が出る場合がある
  • ・自己再生プロセスに依存しているため、上手く修復プロセスが働かないことがある
  • ・治療後に関節を動かさないと硬くなることがある
  • ・痛み、炎症(熱感、赤み、腫れ)を伴う(数日間目安)ことがある。
  • ・変形が強い人には効果が出ない、もしくは弱い場合もある
  • ・感染症、重度の糖尿病、凝固障害、悪性腫瘍の患者様に対しては治療が出来ない
  • ・新しい治療法のため、治療を受けられる医療機関も少ない

効果の決め手は細胞の質

脂肪由来幹細胞治療の効果は、幹細胞の質にも大きく左右されます。そこには、個人の細胞の状態はもちろんのこと、いかに多くの質の高い幹細胞を抽出・培養できるかという技術的な側面も重要になります。
細胞を加工する際には、「幹細胞の生存率を高く保つ技術」と「定着率の高い細胞を見極め培養する技術」がポイントになります。細胞の培養を自施設内で行う医療機関もありますが、国の認可を受けた細胞加工施設で培養された高品質の細胞にて治療を行っているかどうかも、治療効果を左右する重要な要素になります。

これまで、変形性膝関節症が進行し、歩くことも苦痛になったり、日常生活を送ることが困難になると、人工関節の手術を勧められました。それしか選択肢がなかったためです。しかし、手術にはリスクが伴います。

また、仕事や家庭の事情で入院ができない、人工関節への抵抗感など、手術に踏み切るには抵抗があるのは当然です。手術をしたくても年齢の問題や、持病によって手術できないこともあるでしょう。

変形性膝関節症における再生医療は、従来の保存療法でも手術療法でもない、全て自分の細胞の力によって根治を目指すことができる先進的な治療法です。

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